FET 差動バランス型ヘッドホンアンプ
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(下側が今回作成したヘッドホンアンプ。上側にあるのはトランス式 PCM2704 USB-DAC と、平衡型ヘッドホンに改造した MDR-CD900ST)

 滅びゆくリード型半導体たちに生命の息吹を

 たしか 2010 年頃でしたでしょうか。東芝のリード型半導体が悉く「新規設計非推奨」(NRND)に指定され、ほどなく製造中止となってしまいました。産業用に使われる半導体は面実装タイプのものが圧倒的に多いので、採算性に劣るリードタイプの半導体の生産を打ち切って半導体事業の収益性を改善する、という東芝経営陣の判断がおそらくはあったのでしょう。生産終了となったものには 2SC1815 や 2SK30A といった定番のものも含まれていたために、電子工作愛好家たちの衝撃は大きなものがありました。まさか、こんなに早くトランジスタの大絶滅が発生すると予期していなかったオーディオ自作家も少なくなかったでしょう。私も、その1人でした。

 私はこれまで定電流回路を使った真空管アンプを何台か作ってきましたが、定電流回路をディスクリートで組んだ場合と、汎用の IC で組んだ場合とでは明らかに音の質が違います。ブラインドテストもしてみましたが、ディスクリートの方が良い音のように感じるのです。何故そうなのかは、分かりません。私の中ではっきりしていることは、一度ディスクリートの音を聞いてしまったら、汎用 IC の回路の音が物足りなくなってしまったということです。ですから、ディスクリート部品が製造打ち切りとなると困ったことになってしまいます。

 その後、ぺるけさんのHPで FET 差動バランス型ヘッドホンアンプが公開されました。もともと、FET 式差動ヘッドホンアンプが完全にディスクリートな構成だったことから興味があったのですが、そのバランス型ということもあって好奇心に火がついてしまいました。このヘッドホンアンプの製作は少々手強いとのことで、私にとってもチャレンジングな内容でしたが、いつまで半導体の部品在庫があるか分かりません。ならば、「えいやー」とばかりにスタートを切ってしまって、あとは走りながら考えるのみです。
 作る決断をしたら、バランス型回路の調査にとりかかるのと同時に、ぺるけさんに部品頒布をお願いしました。

 魚の開きを、折りたたむ?

 バランス型ヘッドホンアンプを作るにあたり、まずは平衡プロジェクトのページで平衡回路の基礎のお勉強です。一番よく読んだのは、平衡回路の実装のページだったと思います。そこが、肝心要なポイントだと思いましたので。

 平衡回路の基礎と FET 差動ヘッドホンアンプ、バランス型ヘッドホンアンプの解説を一通り読み終わってから、私はこの回路をどのように料理したらよいのか、回路図と平ラグの配置図を照らし合わせながら考えました。回路図のどの部品・どの配線が、平ラグのどこに位置しているのか、一つ一つ確認していきました。

 そこで気づいたのは、「HOT 側の回路と、COLD 側の回路が、2枚の平ラグに対称的に配置されている」。

ぺるけさんの作例では、1ch 分の回路が平ラグ2枚重ねで実装されています。そのうちの1枚に HOT 側の回路が、もう1枚の方に COLD 側の回路が実装されていて、しかも HOT 側と COLD 側の回路は同じ部品が向かい合うように配置されています。平衡回路の基礎(5)のページに、

『これまで述べてきたとおり、平衡伝送系では、外来ノイズは「HOT」と「COLD」の両方に飛び込むことを利用してノイズをかわしてしまおう、という考え方の上に成り立っています。そこには『「HOT」と「COLD」が均等にノイズの影響を受ける』という大前提があります。もし、ノイズが「HOT」と「COLD」に均等に飛び込んでくれなかったら平衡伝送のメカニズムは機能しません。

従って、平衡回路が平衡であるためのさまざまな工夫が必要になってきます。まず、「HOT」と「COLD」の線の長さは同じである必要があり、露出の具合や配置も揃っていなければなりません。「HOT」と「COLD」それぞれの線がアースとの間で生じる浮遊容量が異なると平衡さが失われます。従って、「HOT」と「COLD」それぞれの線とアースとの距離も揃っているとが必要です。実装上、平衡度を確保する最も簡単な方法は、「HOT」と「COLD」をできるだけ接近させること、できれば捻ってしまうことにつきます。』

という記述がありますが、そういうことなのですね。2枚の平ラグを 6mm のスペーサを間にはさんで重ね合わせるのは、HOT と COLD をできるだけ接近させるという意味。そして、HOT と COLD の回路を対称的に配置するのは、HOT と COLD が均等にノイズの影響を受けるようにするという意味、なのでしょう。そう理解しました。

 そのことに気がついたとき、何故か私の頭の中ではアジの開きが浮かび上がっていました。

 「あぁ、魚の開きを折りたたむように実装すればいいわけだ (^-^; 」

要は、FET 差動バランス型ヘッドホンアンプのアンプ部の回路を魚の開きに見立てて、一方の身(HOT)ともう一方の身(COLD)が向かい合うように、もとの魚の形に戻るように折りたたんだ形が、理想的な実装パターンになるということでしょうか。へんてこりんな説明ですいません (^^;

 出来上がったモノ

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 本機を製作する上であらかじめ決めておいたことは、

 シャーシ内部の配置は、上の写真のようになりました。
電源トランスはデジットのトロイダルトランス HDB-12 (L) で、センタータップ両波整流後の電圧は 14.5V くらいです。
電源回路は、12V の三端子レギュレータ1個を使ったベーシックなものです。特に説明の必要もないと思います。

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 アンプ基板です。本機の最もミステリアスな部分です (^^;
もともとは、単純にユニバーサル基板を2枚重ねにして、一方の基板に HOT 側の回路を、もう一方の基板に
COLD 側の回路を実装するつもりでいたのですが、シャーシの高さが 50mm しかないので収まりません。
 シャーシの高さという制約の中で、「魚の開きを折りたたむ」実装を愚直なまでに追求した結果……
このようなお姿になってしまいました。こんな奇天烈なことをしたのは、きっと私くらいのものでしょう (^-^;
なお、15Ωの抵抗については電流量がちょっと気になりましたので、1W のものを使用しております。

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 入力端子と出力端子です。出力端子は、ぺるけさんの作例と同じく 5P キャノンコネクタ(メス)です。
こういう規格が曖昧なものは、一番最初に作ったもの勝ちみたいなところがありますので、それに合わせた格好です。
配線の色は、L-ch HOT が赤、L-ch COLD が紫、R-ch HOT が緑、R-ch COLD が白です。

 試聴した感想

 素直な音のするアンプです。長時間使っていても、聴き疲れしにくいように感じます。もっとも、このことは全段差動プッシュプルにもいえる特徴だと思います。ヘッドホンアンプそのものからは、ノイズは全く聞こえません。

 聴いていてはっきり分かるのは、低域の存在感がしっかりしている、音の解像感といいますか表現力が優れていて録音ソースの良し悪しがはっきりわかってしまう、といったところでしょうか。私がバランス型のアンプ、およびヘッドホンアンプを製作したのは本機がはじめてでした。ですので、どこがバランス型のよさで、どこがヘッドホンアンプの良さなのかは断言はできないのですが、音の解像感はバランス型回路によるところが大きいのかなー、と勝手に想像しております。

 試しに野崎美波さんのアルバム「Air」を買って聴いてみたのですが、シビレました。素晴らしいの一言に尽きます。ぺるけさんがレコーディングに関わっているだけあって録音ソースの質には期待していて、実際その通りだったのですが、良質な録音のクオリティを落とすことなく再生してしまう本機のポテンシャルはすごいな、とただただ脱帽です。
 それにしても、CD という 16bit, 44.1kHz の限られたスペックの中でもこれだけの表現ができるということには驚きです。いまは CD の規格を遥かに上回るハイレゾオーディオがトレンドとなっていますが、そんなことよりも録音そのものの質の方が大切じゃん!とツッコミを入れたくなってしまいます。

 他にも色々なソースを聴いてみましたが、本機の良さはライブ録音を聞いてみるとよく分かるように思います。出てくる音に臨場感があるのです。演奏だけでなく、拍手の雨の音もまた生々しい。そのせいか、本機で音楽を聴いているとついついボリュームを上げてしまいます。すると、周囲の音が全く聞こえなくなってしまい、家人に呼ばれてもその声が全く聞こえないために、当人から肩をポンポンされてはじめて気がつく、ということがしばしばです (^-^;

 ぺるけさん設計のヘッドホンアンプをお使いの際には、周囲の火気には特にご注意ください。 音楽を聴くのに夢中になっていて、気がついたら煙に巻かれていて人生が詰んだ、ではシャレになりませんので (^^;;



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