PCM2704 USB-DAC
| 製作記事 | 回路図 |

usbdac_pcm2704_trans_front usbdac_pcm2704_trans_rear

 市販キットを使ってお気軽に

 USB-DAC の自作の定番といえば、テキサス・インスツルメンツ(旧 Burr-Brown)の PCM270x シリーズです。これらの IC 1つで USB をアナログオーディオ出力に一発変換することができますから、非常にコンパクトな構成の USB-DAC を組むことができます。特に PCM2704 は市販キットによる採用例が多いため、ネット上の情報が豊富というメリットもあります。
(現在 PCM2704 は PCM2704C に代替わりしています。といっても、ボリューム周りが仕様変更されただけです)

 PCM270x シリーズの欠点としては、CD 音質までのデータ(44.1/48KHz,16bit)にしか対応していないことです。もし、ハイレゾ音源対応の USB-DAC を自作しようと思ったら、XMOS のリファレンスボードか、TE8802 を採用したキット用の基板(具体的なところでは、Audio-gd という会社がボードを出しています)を入手して、そこからオーディオ出力を I2S で取り出して PCM1794A 等の DAC IC に放り込む、といった構成を組む必要があるため、一気に難易度が上がってしまいます。それはそれで自作屋の楽しみが増える (^^; というのも確かなのですが、CD 音源しか持っていないのであれば PCM2704 で必要十分と思われますので(むしろ、録音ソースの質の方が重要!)、今回は廉価&お手軽路線で USB-DAC を組んでみることにします。

 下敷きは、例によってぺるけさんの Digital Audio & Home Recording です。

 CD プレーヤーを使わないメリット

 結局のところ、わざわざ CD を引っ張り出さなくて済むとか、誤って大事な CD を傷つける心配がない、ということになるでしょうか。

 「CD プレーヤーによる再生と、PC でリッピングして再生とでは、どちらが音が良いか?」という議論は昔からあります。一見してゼロスピンドルであるリッピング再生の方が、物理的な読み取りエラーが発生しないため音質的には圧倒的に有利な気がするのですが、音楽 CD にも CIRC という優れたエラー訂正機能があって、CIRC でも訂正できないようなエラーが発生することは稀だとのことです。
 しかし、実際に聞いてみると、やっぱりリッピングした方が音が良いのです。う~ん、何ででしょう?

 参考までに私のPCオーディオ環境ですが、CD は EAC でリッピングして FLAC 形式に圧縮して保存し、再生するときには foobar2000 から WASAPI で USB-DAC に出力しています。
 PC と USB-DAC を繋ぐ USB ケーブルは、ツイストペア構造でフェライトコア付きのケーブルを推奨します。できれば、PC 本体の USB 端子から直接 USB-DAC をケーブルで接続してください。安物のケーブルはデータ転送時にエラーが発生しやすく、オーディオ品質の安定性が危惧されるためです。実際、私が仕事で USB プロトコルアナライザを使っていたときに、USB のトランザクションの半数以上で NAK エラーが発生するケーブルに当たってしまった経験があります (^^; USB のデータ信号線(D+/D-)は差動伝送方式ですが、それでもケーブルのつくりがよくないと外部ノイズの影響を受けてエラーが発生しやすいようです。
 ツイストペア構造でフェライトコア付きのケーブルで NAK エラーが発生することは、私の経験上では殆どありません。オーディオ用を謳った高価な USB ケーブルも市場には存在するようですが、費用対効果には疑問符がつくと思っています。

 自作にしますか、それともキットにしますか?

 さて、PCM2704 を使って USB-DAC を組むとなると考えられる選択肢は2つです。

 私は当初、電気回路のお勉強の意味も兼ねて後者で挑戦してみました。結果は、華々しく玉砕!です。回路を設計・実装して音出しできたまではよかったのですが、アース周り?が弱かったせいか近くの蛍光灯を ON/OFF するだけでシステムダウンしてしまうという致命的欠陥が治らなかったのです。市販のキットでもたまにそういうことは起きたのですが、それに比べると私が自作した基板はノイズに弱くてダメダメでした。
 ……というわけで、今回はキットを購入して USB-DAC を組み立てることにしました。というか、今後の DAC 作りもなるべくそうしましょう。回路実装技術に左右されないキット基板の方が、動作安定性を期待できる訳ですから。

 PCM2704 をつかったキットは色々ありますが、秋月電子のキット(AKI.DAC-U2704)が実装済みの部品が多く、基板サイズもコンパクトでお勧めです。かつては VICS のキットが有名でしたが、こちらは 2013 年6月で販売終了となっています。

 私の改造方針

 秋月電子のキット(AKI.DAC-U2704)の回路を前提として説明します。

 C14 のコンデンサ容量を減らしたのには根拠がありまして、アップストリームに面している(デバイスの)ポートのパスコン容量は最大 10uF とUSB 仕様書に定義されているからです。これについては、Universal Serial Bus Specification Rev.2.0(USB.org に公開されているファイルの中にある usb_20.pdf)の Table 7-7. DC Electrical Characteristics をご確認ください。7.2.4.1 Inrush Current Limiting にも、接続時の突入電流による VBUS 電圧降下量が規定値を超えないことを保障するために、デバイス側のパスコン容量を 10uF 以下にすることが明記されています。

A high-power bus-powered device that is switching from a lower power configuration to a higher power configuration must not cause droop > 330 mV on the VBUS at its upstream hub. The device can meet this by ensuring that changes in the capacitive load it presents do not exceed 10 μF.

 C14 の容量を減らしたので、C15, C16 の容量も減らしています。音質への影響が気になるところですが、FET 差動バランス型ヘッドホンアンプの入力に今回作成したトランス式 DAC を接続して聞いてみたところ、ボリュームを最大に回し切ったときにサーという音のノイズが聞こえました。しかし、C14, C15, C16 の容量をぺるけさんの推奨値に変更してもノイズの出方に変化がなかったため、今回の基板では USB 仕様書の定義に基づいてこれらのコンデンサの容量を減らしています。(本当は残留雑音の測定をすべきなのですがサボっています。すいません (^^;)

 C11 のパスコンは低 ESR タイプの方がよいので、ここはOSコンに差し替えます。C3, C4 のコンデンサは、単価が 100 円程度のポリプロピレンフィルムコンデンサに置き換えました。まあ、これは気分の問題ですね (^^; C5, C6 のコンデンサ容量は、ぺるけさんの解説通りに容量を変更します。
 LED1 からの線出しには、0.3mm のこて先とはんだ線を使って作業しました。通常の 0.5mm サイズのものでは、はんだ付けに苦労します。

 作例3つ

usbdac_pcm2704_trans_inside

 トランス式 USB-DAC です。
DAC 基板は AKI.DAC-U2704、トランスはタムラの TpAs-10S、ケースはタカチの YM-130(130 x 90 x 30 mm)。
PCM2704 の VOUTL, VOUTR 端子から先は、ぺるけさんの作例と回路定数が同じです。

 本機のオーディオ出力は平衡出力で、出力端子は 3P キャノンコネクタではなく TRS ジャックです。
ケースの大きさの都合上というのもありますが、キャノンコネクタ用の穴あけが面倒なことと (^^; 手持ちの M-AUDIO Fast Track Pro の平衡出力端子が TRS なのでそれに合わせた、という事情もあります。

usbdac_pcm2704_normal_inside

 トランスや FET 差動バッファのない、キットの出力端子にローパスフィルタのみを追加したバージョンです。
DAC 基板は AKI.DAC-U2704、オーディオ出力は不平衡出力、ケースはタカチの YM-90(90 x 60 x 20 mm)。
これよりも小さなシャーシに押し込めるのは無理です。たぶん。

usbdac_pcm2704_digital_inside

 オーディオ出力端子を、アナログ出力ではなくデジタル出力のみにしたバージョンです。
DAC 基板は VICS のキットのもので、ケースはタカチの YM-90(90 x 60 x 20 mm)。
出力端子は COAXIAL (同軸デジタル)と OPTICAL(光デジタル)。
別の DAC 基板の動作確認用に作成したものです。

 このバージョンで最も大変なのは、PCM2704 の DOUT 端子の出力信号を取り出すところです。DOUT 端子から信号線のパターンが出ていなかったので、IC の足に配線を直接半田付けして配線しました。PCM2704 は SSOP パッケージ(ピッチ幅 0.65mm)なので、0.3mm のこて先とはんだ線が必須です。また、このような場合の配線はビニル電線よりも芯線径が 0.3mm ~ 0.5mm 程度のエナメル線を使った方がやりやすいです。はんだ付けしたら、はんだ付けした箇所にストレスがかからないようにホットボンドで配線を固定しておきます。
 AKI.DAC-U2704 の場合、DOUT 端子の出力信号を取り出すためのパターンが用意されていますので、VICS の基板よりは改造が楽です。


| Slemanique | Audio | PCM2704 USB-DAC |