月刊誌 「FACTA」 【 情報誌 】

FACTA

 オリンパスの不明朗買収疑惑を3ヶ月も前にスッパ抜いた月刊誌

 FACTA は、2011年10月に起きたオリンパス事件(損失隠し騒動)で一躍名を馳せた情報誌です。オリンパス事件の経緯をメディアがどのように報道していたかという視点で当時を追ってみますと、大手メディアのダメっぷりが、そして時には有害になることさえあるということが、よく分かります。

 社長解任騒動で、株価が半分以上吹っ飛んだオリンパス

 2011年10月14日、オリンパスがマイケル・ウッドフォード社長の解任を突如として発表しました。オリンパスの広報から発表されたコメントは「社長と他の経営陣の間で経営方針が対立し、経営の意思決定に支障をきたした」というもの。当日の全国5紙の記事も、オリンパス側の主張に沿った内容でした。日経電子版の記事の見出しを書き並べてみますと、

発表直後からオリンパスの株式は経営の先行きに対する不透明感から売りが殺到し、株価は終値で前日比 2,482 → 2,045 (-437) と大幅に下落します。狼狽してオリンパスの株式を投げ売りした投資家も大勢いたと思われますが、結果的に彼らはさらなる地獄を見ずに済んだのです。

 その週末、思いもよらぬところから事態は大きく一変します。英紙 Financial Times にウッドフォード社長へのインタビューが掲載されたのですが、その内容はオリンパス側の主張とは全く食い違うものでした。社長側の言い分としては、

といった問題を、菊川会長に突きつけたところ、逆に会長以下のその他の経営陣から社長を解任された――というものです。この邦訳記事は週明け10月17日の JBpress で公開され、日本国内でもオリンパス社長解任事件の真相が知られることになります。

 果たして、週明け10月17日にオリンパスの株価は 1,795 (-250) で寄り付きますがそれもつかの間、一時 1,545 のストップ安となります。当日の日経電子版には

といった記事が掲載されています。日経は、FT にオリンパスに関する報道が掲載されたことを認めてはいますが、問題の深刻さには一切触れていません。むしろ、17日時点では両論併記という形でオリンパス側の言い分を伝える内容が目立ちます。結局、17日のオリンパスの株価は前日比 1,555 (-490) で引けました。

 が、その後もなお日経にはオリンパス側寄りの報道が目立ちました。

その挙句に出てきたのが、こんな記事。いったい、日経は何が言いたいのでしょうか……

 何故日経がこのような記事に終始するかというと、日経をはじめとする大手新聞は大企業がスポンサーとなっているからです。当然、オリンパスもその一員です。そして、スポンサーにとって都合の悪いことは記事に書かないのがメディアの "暗黙の" 掟です。いや、それどころか大企業は都合の悪いことが起きればメディアを抱き込んで「御用記事」を書かせようとしますし、メディアも進んでその企業を擁護する記事を書きます。大企業と大手メディアは なあなあ の関係なのです。さらに今回の場合、日経BP社の副社長を務めた人物がオリンパスの社外取締役を務めていることから、事態はより深刻です。日経の関係者から圧力がかかったことを JBpress の編集長は認めています

 ちなみに、福島第一原発事故後に脱原発路線を掲げ、その鉄の掟まで敢えて破るに至ったのが東京新聞です。東電をはじめとする電力会社は経団連と深い繋がりがありますので、東京新聞には経済封鎖という名の圧力がかかり、事実2011年7月10日から大企業の広告が掲載されなくなりました。しかし、却ってそのことが正しい情報を知りたい市民の間で評判を呼び、首都圏では読売・朝日が大きくシェアを落として、かわりに東京新聞のシェアが伸びていると聞きます。

 さて、オリンパスとしては何としてもこの騒動を収めたかったのでしょうが、FT に連日のように記事を書き立てられては、もはや収拾がつきません。結局、その週オリンパスの株価の終値は以下のように推移し、社長解任発表前の半値以下になってしましました。

オリンパスの株式を持っていた(あるいは、暴落後のリバウンドを期待して「落ちるナイフを素手で掴んだ」)投資家たちは散々な目に遭ったわけです。まさに青天の霹靂、といったところでしょう。

 ……いえ、違います。実は一部の人たちにとっては、オリンパスにまつわる一連の疑惑は周知の事実だったのです。

 事の発端は、FACTA の記事

 10月15日の FT の邦訳記事には、次のような一文があります。(以下、JBpress の記事より一部引用します)

「今年7月、日本の雑誌が、オリンパスは2006~08年に行った国内企業3社の買収で過大な値段を払ったとする記事を掲載し、同社のために買収を取りまとめた投資ファンドで不適切な取引が行われていたことを示唆した。  ウッドフォード氏が記事について菊川会長やほかの取締役に質問すると、同氏は「心配しなくていい。あなたは忙し過ぎるから、我々が対処する」と言われたという。オリンパスは問題の記事で、疑惑を否定している。」

この「日本の記事」というのが、月刊誌「FACTA」のこの記事です。

「オリンパス『無謀M&A』巨額損失の怪」 (2011年8月号) ※ 本記事は無料公開されています

この記事には、国内3社の巨額買収とそれに伴う減損処理も、ジャイラスの買収に関わる疑惑もしっかり書かれています。いくら本業の内視鏡事業が堅調でも、ファイナンス面でこれほどの大きな穴を開けてしまっては、遠からず経営危機に進展するのは時間の問題でしょう。株価の下落が止まらなければ、7割超のシェアを握る内視鏡事業を狙った買収劇が仕掛けられる可能性も考えられるところです。幸か不幸か、現状では欧州債務危機の方が世界経済にとっては大きな問題で、大多数の企業はキャッシュの確保を優先すべきと考えられるのでオリンパスを相手にしている余裕はないと思いますが……

 店頭販売をせず定期購読制をとる情報誌としては、「選択」,「フォーサイト」,「FACTA」,「エルネオス」あたりが一般に知られています。(フォーサイトは Web 版のみ)現在、筆者は「選択」と「フォーサイト」を定期購読していますが、この2誌には本件に関する記事はありませんでした。(フォーサイトはどちらかというと海外事情の動向がメインなので専門外かもしれませんが)Web で調べた限りエルネオスにも無かったようなので、今回のオリンパス事件はまさに FACTA の独擅場となったわけです。

 この FACTA、いわゆる「選択事件」(選択出版の御家騒動)の際に編集長の座を追われた阿部重夫氏が立ち上げた雑誌で、阿部氏の後任である宮嶋巌氏もほどなく FACTA に "移籍" しています。そういった経緯があるため雑誌のコンセプトも「選択」と同様で、競合関係にあります。なので、筆者としては前々から気になる存在ではありました。

 しかし、今回のオリンパス事件を契機としてようやく踏ん切りがつきそうです。近々、筆者の本棚にも FACTA が並ぶことになるでしょう。ちなみに気になるお値段ですが、

それに比べて、日経電子版は月々 4,000 円します。それでいて都合の悪い記事は書かないのだから、詐欺みたいなものですネ。日経の喜多社長曰く、

「紙の新聞で培ってきた正しい報道や価値のある言論、ジャーナリズムを、PCや携帯電話などデジタル機器に親しんだ人にも提供するのが使命」

なのだそうですが、日経は所詮株屋、ジャーナリズムと呼ぶに相応しくないのは今回の件で明白です。

 日本国内の個別株投資家にお勧め (2013.9.1 追記)

 ということで、FACTA 定期購読しております。オモロいです。ただ、記事に少々アクの強さを感じますね。この雑誌は読者を選ぶと思います。どちらかというと「選択」の方がサッパリしていて読みやすい。
あと、アベノミクスの黒幕とも言うべき高橋洋一氏が頻繁に寄稿していたのも気がかりであります。政治に対する距離が、ちょっと近すぎる。

 とはいえ、全国5大紙では決して得られないクオリティがあることは確かであります。FACTA にマークされた企業は「FACTA 銘柄」と某掲示板では呼ばれておりますので、国内株式の個別株を取引されておられる方には定期購読する価値が十分にあると思います。



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