金(ゴールド)の価格動向を推測するための指標の1つに、NY金先物残高があります。
これは、CFTC(Commodity Futures Trading Commission,米国商品先物取引委員会)が毎週末に公表している
投機筋の売買残高で、一般的にゴールドの売買ポジションの偏り状況を知るための手掛かりとして使われています。
以前は、日経マネーの「金市場関連データと亀井幸一郎の市況解説」にトン単位に換算した値が掲載されていたのが
便利だったのですが、金投資の情報コーナーのサイト閉鎖に伴い無くなってしまいました。
(現在、豊島逸夫さんのブログは三菱マテリアルのサイトに、亀井幸一郎さんの市況解説は住友金属工業のサイトに掲載されています)
それ以降、NY金先物残高については金市場関係者のみなさんが時折ツイートしてくれることもあるのですが、
基本的には自分で直接調べるしか方法がありません。ここでは、その調べ方をご紹介します。
まず、CTFC のトップページから 「MARKET REPORTS」→「Commitments of Traders」をクリックします。
COMMITMENTS OF TRADERS のページにある「Current Legacy Reports」の項目の中に「Commodity Exchange Incorporated」というのがありますが、これがメタル関係の先物残高データです。
「Futures Only(先物のみ)」の「Long Format」「Short Format」どちらでもよいのでクリックします。
「Long Format」のデータを見ていくと、ゴールドに関するデータがあります。
その中に「Non-Commercial」という項目がありますが、これが投機筋のポジションに当たります。Long が買い玉、Short が売り玉。
ロットの単位は 100 トロイオンスです(1トロイオンス=31.1035グラム)。
上記 2012/2/21 時点のデータでは、Long が 214,343 枚,Short が 33,382 枚となっています。
この場合、先物のネット買い越し残高をキログラム単位で計算すると、
(214,343 - 33,382) × 3.11035 = 562,852 (Kg)
つまり、この日のNY金先物残高は 562.9 トンの買い越しです。これが日経マネーのサイトに掲載されていたデータの計算方法です。
先物取引は反対売買により取引終了して利ザヤを抜くのが一般的ですので、先物取引の買い越し残高が多くなると利益確定の売りが
出て値下がりしやすく、残高が少なくなると新規の買いが入りやすくなって値上がりしやすくなる傾向があります。
具体的には、過去最高の買い越し残高が 800 トン強でありこの水準まで膨れ上がると値崩れの危険水域、400 ~ 500 トン程度まで
淘汰されると反発が見込まれる水準であると言われています。
念のため書いておきますが、NY金先物残高はあくまでも金価格動向を推測するための指標の1つに過ぎません。実際には
米国の金融政策や関係者の発言内容、主要国の CPI(消費者物価指数)、各国中央銀行の金準備高、世界の金生産量、
中国・インドをはじめとする新興国の実需動向、ロンドン渡しとドバイ渡しとの金価格スプレッド、金 ETF の残高、
株式市場のセンチメント、さらには中東情勢……といった複合的な内容をバランスよく見渡すことが必要です。
値頃感だけで売り買いすると痛い目に遭うのでご注意を(特に、金のショートは難易度高し!)。
ゴールドについては、現物や金 ETF を中心にレバレッジをかけず、コツコツちまちま取引するのが損をしないコツです。
あと、本来の正しい使い方である資産保全目的の運用(全資産のうち5~10%程度をゴールドで保有すること)もお忘れなく。
追記 その1 (2013.9.1 Updated)
……ということを書いたのが 2012年2月。あれから1年半しか経っていませんが、金市場を取り巻く環境が当時とはだいぶ変わっています。
あれから、日経も似たような内容を2013年1月に書いていましたが、買越量 800 トンで警戒水準、500 トン以下で反発局面という過去のセオリーは
その時点でもう通用しないものになってしまっています。
(この内容を信じてドル建て金を高値掴みしてしまった人、どれくらいいるのかな。。。でも、投資は自己責任の世界)
その理由は、主に2つ。
1つは、バーゼルⅢ(銀行の自己資本規制)の影響により金融機関が以前よりもポジションを膨らませにくくなっていること。
(このことは、旧ブログの2012年9月9日の記事でしっかり書かせてもらいましたよ!)
もう1つは、「グレート・ローテーション」の影響ですね。金 ETF は長期運用のマネーに支えられていますが、株の方が
パフォーマンスが良い、米国 FRB のメンバーの中でも量的緩和政策の解除を求める声が強くなってきている、ということが
「金から株へ」のマネー還流を生んでいるために、高値圏では欧米ファンドから金 ETF 売りが出て上値が抑えられています。
しかし、新興国を中心とした実需筋は安値を確実に拾ってきていますし、中国では景気動向如何に関わらずゴールドが爆発的な勢いで
買われていますので(これは人民元に対する不信任投票だと筆者は睨んでいます)、金価格が長期的に下がり続けるシナリオは
考えにくいです。金鉱山の採算ラインは世界平均で見て 1,200 ドル程度と言われていますので、そこが1つの目安になるでしょうか。
(たたし、プラチナ相場を見れば分かるように、市場価格が一時的に採算ラインをアンダーシュートすることは十分にあり得ます)
また、Bruce 池水さんは Futures Only ではなく Futures-and-Options-Combined の数字を使ってNY金先物残高の評価を行っています。
具体的な内容については、こちら。
これは流儀の問題ですね。どちらが正しい、というものではありません。
追記 その2 (2020.12.1 Updated)
7年後……とうとうゴールドの最高値が 2,000 ドルを超えてしまいました(一瞬でしたが)。
本記事で説明したNY金先物残高ですが、実は第一商品のCFTC建玉明細のページに全く同じ方法で計算されたデータが掲載されています。ドル建て金価格と金先物残高の推移を見比べるのであれば、そちらのページの方が断然見やすいです。
しかしながら、金取引の市場においてSPDRゴールド・シェアに代表される金ETFの比重が大きくなったことでNY金先物市場のプレゼンスが低下してしまったことから、もはやNY金先物残高だけを手掛かりに直近の高値・安値の目途を立てることは不可能になってしまいました。NY金先物残高を参考にされる方は、金ETFの残高も合わせて見るようにしてください。